CASE

人間が創ったものを描きたいと思い、文明の象徴として階段、文化の象徴として本を描きました。次に、わたしたちに生きる力を与えてくれるものとして、演劇、そして音楽を描けないものかと思い、劇場とオルガンを描いてみました。しかし、それらは所詮、演劇、音楽そのものではあり得ず、演劇の場(しかも、たびたび演劇そのものと対立するところの場)、そして音響装置の箱でしかありませんでした。

Staircase, Bookcase, Organ case, そして演劇のcaseとしてのオペラ座。わたしが描き得たのは、中は空洞のcaseばかり。それらは果たして、何かの価値があるのでしょうか。

六人組のひとり、ジョルジュ・オーリックは、エリック・サティを讚える文に、以下のように書いています。
『我々はサティの『簡潔さ』の教訓が必要であった。三十本の幅は車輪を形造る。しかし、車輪をして車輪の用をなさしめるものは中輪の中の空洞(ルビ:うつろ)な部分である。又壺は、壺の空洞な部分によってその効用を果たす。そして部屋は又、その空洞なる故以を以て部屋の用を果たすのである。かように『存在するもの』は一つの利益ではあるけれど、効用は常に『存在しないもの』によって作られる・・・』(坂口安吾訳)

わたしが描いたのは『存在するもの』です。その中に何か効用を果たす『存在しないもの』があるとすれば、それは、絵を見てくださる人々の目の中にあるのでしょう。


ジョルジュ・オーリック  Georges Abel Louis Auric  1899-1983

フランスの作曲家。幼い頃から神童ぶりを発揮し、1920代に「フランス六人組(Les Six)」のひとりとしてエリック・サティ、ジャン。コクトーと親しく交わる。コクトーの映画制作に伴い、映画音楽の分野で活躍。1962年にパリ・オペラ座の音楽監督に就任。後にフランス音楽著作権協会の議長に就任。

深夜叢書『エリック・サティ』
ジャン・コクトー著 
坂口安吾、佐藤朔訳

 
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